RESEARCH

診断・検査用ペーパーデバイスの開発

 日本をはじめとする先進国においては高齢化が進んでおり、健康維持のためには適切な疾病治療法の提供に加えて、予防医療による健康増進や疾患の早期診断が重要です。また、2020年に端を発するコロナウイルス禍では、学校の休講やイベントの自粛など、多くの社会活動の制限がなされました。感染が拡大している状況下で、社会活動と感染対策の両立を図るためにも、迅速かつ簡便な検査法が必要となります。このように、日常生活の多くの場面で、持ち運びが簡便で衛生的に使用できる低コストの診断器具が必要とされています。
 紙産業イノベーションセンターでは、精密機器や電気を使用せずに、必要な時に、必要な場所で、いつでも、どこでも検査や診断ができる簡易検査キットの開発を行っています。従来から用いられているプラスチックやガラス製の簡易検査キットでは検査液を流し込むためのポンプが必要でした。また、インフルエンザやコロナの検査に用いられるイムノクロマト法の場合には、複数のパーツの組み合わせで製品ができており、高コストとなっております。そこで、これらの課題を解決する方法として、毛細管現象で液体を吸水する紙素材を用いて、印刷技術を活用することで、検査液が流れる流路を意図した形状で大量生産できる技術を開発しました。
 具体的には、耐水性の紙基材にパルプ繊維等の親水性材料を印刷技術で付与します(図1)。印刷技術を活用すると、①意図した形状の流路の大量生産が可能、②インキの組成を変更することにより流路内部の構造を変えることができます。流路断面の観察結果から、繊維の種類や配合量の違いにより、流路の構造に明らかな違いが確認されました(図2)。すなわち、流路の内部構造を変化させることで、検査液の流速や流量を制御することが可能です。この基材を用いて、検査液を所定の流速で流しながら、試薬の呈色反応により健康チェックを行うことができます。さらに、紙は繊維の集合体であり、ろ過(フィルター)機能を付与することができますので、検査液中の夾雑物(固形分)のろ過前処理と検体検査を同時に行うことも可能になりました。
 我々が開発した簡易検査キットは、愛媛大学独自の技術として既に複数の特許が登録されています。現在は、地元企業に本技術を提供しながら実製造に向けた共同研究を進めています。この新しい技術及び製品を愛媛から全国に、そして、世界に発信することによって、いつでも、どこでも、安心して健康チェックができる簡易検査キットを提供していきたいと考えています。

図1 紙産業イノベーションセンターが提案する紙製バイオチップ
図2 流路の断面写真

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