紙の総合マッチングサイト「四国は紙國」の立上げと運営
IT化や海外製品との競合などによる紙関連製品の需要減が顕在化した状況を受けて、2010年、愛媛県・高知県の製紙・紙加工経営者、愛媛県紙パルプ工業会、高知県製紙工業会の「産」、四国経済産業局、愛媛県・高知県の公設試の「官」、愛媛大学、高知大学の「学」により、「四国地域における紙産業振興のための体制を考える会」が発足しました。四国の紙産業界を振輿する上で、紙産業界の現状把握のためにSWOT分析を行ったところ、四国紙産業界の強みとしては、
・ 歴史ある芸術、工芸、文化(水引、手すき和紙など)
・ 非常に充実した紙関連施設、団体による活動
・他に類を見ない紙関連企業の集積
がある一方、弱みとしては、
・ 情報発信力が弱い(消費者の認知度が低い)
・ 商品開発力が弱い(ニーズの把握、デザイン力)
・ 不利な企業立地条件(消費地から遠いなど)
が明らかとなりました。
上記の分析を通じ、今後の紙産業振興に求められる機能として①技術開発支援機能、②販路開拓支援機能、③情報収集•発信機能、④企業交流支援機能、⑤人材育成機能の強化が提言されました。これらの中で、「③情報収集•発信機能」は他の全ての機能に関わることから、この機能を最優先したマッチングサイト「四国は紙國」を四国中央市、四国産業・技術振興センター、四国中央紙産業振興協議会、愛媛大学等が連携して2013年に立ち上げました(図1)。
同サイトは全国の企業または個人が会員登録なしで紙に関する問い合わせが可能であり、専門のコーディネーターが登録会員企業とのマッチングを行うことで、多くの新しいビジネスが創出されています。ビジネスにつながるマッチングにおいては、マッチング後のフォローも重要となるため、当センターもこの活動を技術的な側面から支援するとともに、運営活動にも参画しています。
近年、地球温暖化防止のためのカーボンニュートラル(CN)に対する関心が高まっており、紙素材はCNの解決策の一つとして、これまで紙素材が展開していない分野への進出が期待されています。しかし、新規分野への進出においては、技術開発や製品実用化に対して補完しあえるパートナーと出会うことは容易ではありません。そこで、「四国は紙國」が有するコンサルティング機能を活用することで、マーケティング等に制約がある中小企業であっても新しいビジネスにつなぐことが可能となっています。
四国CNFプラットフォームの立上げと運営
CNFは国内外の学術研究において有用な特性が数多く見出されており、様々な企業が実用化に向けた開発を実施しています。しかしながら、CNFの取り扱いが難しい用途もあり、CNFの社会実装には未だに多くの課題が残されています。
一方、四国は、CNF関連技術を有している紙産業に加え、CNF原料となる農林業、CNFを利用する側の化学産業や繊維産業等、CNFの実用展開に向けて幅広い産業が集積しており、さらに産官学のCNF研究連携体制が構築されていることから、CNFを基軸としたバイオリファイナリー拠点を形成できる土壌を有しています。このような背景の中、四国地域の特徴を活かしたCNF関連産業創出を目的に、四国経済産業局、四国4県および各県の公設試、四国産業・技術振興センター、紙関連企業、並びに愛媛大学紙産業イノベーションセンターが連携して、2016年に四国CNFプラットフォームを設立しました。
四国CNFプラットフォームでは、CNF利用を検討している会員企業に対し、企業の開発ステージに合った情報や技術提供を行う3つの「場」を用意し、CNFの社会実装に向けて開発ステージをステップアップできるように事業設計がなされています(図2)。
スージ1:セミナーや交流会を通じた「学びの場」
CNFを知ってもらうための技術セミナー・講義会の開催や、「CNF利活用検討ヒント集」の発行。ステージ2:試作や実習、勉強会等の「集いの場」
CNF製造やCNFを利用した材料作りの実体験ができるCNF体験セミナーの実施、CNF無償サンプルの提供。ステージ3:共同試作・開発やプロジェクト化の「実施の場」
実用化を目指す企業において、開発状況や技術関連情報の秘密を維持した状態での試作・開発の個別サポート、経営支援NPOクラブのネットワークを活用したマッチング。
紙産業イノベーションセンターでも、これまでのCNF研究で培ったCNF製造・利用のノウハウを活かしてセミナーでの講義や、当センターの設備を利用したCNF製造・分析セミナーを開催し(図3)、ステージ1•2における活動に協力しています。
芭蕉和紙と地域活性化
バショウは比較的温暖な地域に植生する温帯性の多年草で、愛媛県では南予地方の大洲市、内子町などに多く植生しています。これらの地域ではお盆になると棚飾りという伝統行事が行われ、お供え物の敷物として大きなバショウの葉が用いられていますが、バショウの茎はお盆の行事が終わると切断・廃棄されてしまいます。当センターでは、廃棄されるバショウを地域における新たな資源として再生させるため、廃棄されたバショウの茎からバショウ繊維を抽出し、優れた風合いの “芭蕉和紙”を開発しました。バショウ繊維にはCNFが含まれており、芭蕉和紙は半透明な外観、染料の色を損なわない染色、墨やマジックインキで書いてもにじまない等の特徴的な性能を有する新しい和紙となりました。
この芭蕉和紙は「愛媛大学酒プロジェクト」にて作られた日本酒「愛され媛」のラベルとして採用されました(図4)。また、新しい和紙が愛媛県南予地域の新たな伝統産業となるよう、愛媛大学社会共創学部の学生を中心として、地域のお祭りや行事に芭蕉和紙を用いた作品を持参して参加するなど、芭蕉和紙の知名度向上に努めております。具体的には、内子町小田地区で夏に開催されている「小田燈籠祭り」に参加し、芭蕉和紙を用いた燈籠を展示しました。また、内子町の五十崎地区で開催された「和紙創作展」では、芭蕉和紙で作ったアクセサリーやタペストリーを出展する等、芭蕉和紙の普及活動に取り組んでいます。さらに、芭蕉和紙で新事業を興すためのビジネスプランを構築し、伊予銀ビジネスプランコンテストで「新素材活用賞」を受賞した他、第4回松山地域クラウド交流会にて優勝し、千葉県幕張市で開催された全国大会にも出場を果たしました。
ここでは、芭蕉和紙の事例をご紹介しましたが、当センターにおける研究開発の多くは学術研究だけにとどまらず、地域資源活用や地域産業への貢献までを想定しています。
地域活動への参画
紙産業イノベーションセンターでは、地域に存在する高等教育・研究機関として地域の社会活動への積極的な参画を行って参りました。地域活動への参画を通じて、地域をより深く知り、地域で活動している方々とのつながりを醸成することが出来ます。ここでは、地域活動への参画の一端についてご紹介します。
当センターに在籍している教員は、紙関連および紙を取り巻く周辺の技術に関する学術団体において、様々な委員を担当しており、学術面での地域産業発展をサポートしています。また、愛媛県や四国中央市においてもいくつかの委員を兼任しており、愛媛県では県内企業の科学技術振興に対する評価とサポート、四国中央市では市の中長期ビジョン制定を支援する四国中央市総合計画審議会の会長等を務めております(表1)。加えて、地域紙産業において、今後避けては通れないカーボンニュートラルな社会実現に向けた取組みにおいて、経済産業省でのロードマップ作成の委員として活動するとともに、四国中央市カーボンニュートラル協議会においてオブザーバーとして、地域紙産業におけるこれら取組みに対する支援を行っています。地域産業発展には、製品化等に直接的につながる研究開発での活動も重要でありますが、産業を支える業界団体や行政活動に携わることも当センターの重要な責務としております。
また、地域活動への参画の例として、四国初の「女性議会」への学生参加が挙げられます。2019年に四国中央市議会において「女性議会」が開催され、当時の社会共創学部4回生石川美伊さんと、同3回生丸山颯己さんの2人が選出されました。2人は議会開会当日まで、現役の市議会議員ご指導のもとに何度も打合せを重ね、実際の市議会の事務手続きに従って質問要旨を練り、本番の質問通告書、質問原稿の作成にあたりました(図5)。
当日は、石川さんが議長として選出されて議事運営を務めました。また、丸山さんはキャンパスに通う学生の代表として街灯整備の現状と、防犯・交通事故対策などについて質問しました(図6)。この質問を受けて、早急に三島川之江インターチェンジ近くの街灯が整備されました。参加した学生にとって、議会の活動を知る非常に良い機会となりました(図7)。
他にも、地域の国際交流活動に参画しており(四国中央市国際交流ビジョン委員会、四国中央市国際化推進実行委員会など)、四国中央市の国際交流ビジョンの策定に関与するとともに、外国人との交流や住みよいまちづくり、相互の文化理解やスポーツ交流などへの助言や支援を行っております(図8)。なお、これまでに大学院農学研究科バイオマス資源学コースに台湾や中国からの留学生が入学するなど、国際的な紙産業人材育成を行っております。