近年、欧米諸国を中心に医薬品による水環境汚染が大きな問題として取り上げられ、日本でも種々の医薬品が河川水中および下水処理水中から検出されています。医薬品は特定の生理活性を持つように設計されており、水生生物への影響や耐性菌の出現などが懸念されるため、水の循環利用の観点からも適切な処理技術が求められています。
従来の活性汚泥法で除去できない排水中の医薬品の除去技術として、活性炭やゼオライト等による吸着処理や、光触媒を用いた促進酸化法による分解処理が提案されていますが、これらの材料は一般的に粉末状であるため、処理後に排水と複合材とを固液分離する必要があります。そこで、機能性材料の成型と複合化を同時に行う手法として、抄紙技術を用いた機能紙の調製を研究しています。熱融着機能を有する化学繊維を用い、乾燥と同時に加熱で繊維間の融着を起こすことで、水中でも強度を発現できる機能紙を作製できます。ペレット成型等と比較して、抄紙法によって調製した機能紙はフレキシブルで大面積の材料を提供可能であるとともに、多様な機能性材料へ応用できる、といった利点があります。また、吸着材と光触媒を複合した機能紙を作製したところ、除去対象物質を紙中に取り込むことで、有機物や塩類等の阻害物質が大量に存在する排水中でも対象物質を選択的に除去可能であることが見出されました。
さらに、調製した機能紙を搭載した回転円板型促進酸化装置(Rotating Advanced Oxidation Contactor、以下RAOC)を開発しました。水中で光触媒を使用すると、水による紫外線の減衰が起こるために処理効率が低下し、スケールアップの妨げとなっています。RAOCでは、紫外線は気相部で照射されるため水による紫外線の減衰を低減することができ、照射エネルギーを効率的に利用できます。このように、光触媒や吸着材を機能紙としてRAOCに組み込むことで、光の減衰や固液分離の問題を一度に解決することが可能となりました。
上述のように、RAOCに搭載する機能紙には様々な機能性材料を導入できるため、排水の性質に合わせた設計が可能です。これまでに、下水二次処理水や淡水養殖排水、逆浸透濃縮排水中のサルファ系抗菌剤の除去に効果的であることを明らかにしています。現在は、社会実装を視野に排水処理装置の設計とスケールアップを進めており、将来的に排水中の微量化学物質除去のための新規水処理システムを提供したいと考えています。