RESEARCH

金属-粘土ハイブリッド材料

 印刷にじみの抑制や白色度・発色度向上を目的に、紙の表面には、粘土と呼ばれる無機材料が塗布されています。粘土を紙表面に塗布すると本来紙が持たない特性を付与することができます。我々はこの紙製造技術を金属のアルミニウムに応用できないか検討を行った結果、常圧の水溶液中で、アルミニウム表面を粘土に転換できること見出し、この材料を金属-粘土ハイブリッド材料と命名しました。この金属-粘土ハイブリッド材料には、以下のような様々な機能(用途)があることが分かっています。アルミニウム上に形成された粘土は親水性で花びら状多孔質構造を有していることから、保水能を有したハイブリッド材料となることが期待されています。粘土表面に滴下された水は、すばやく水膜を形成するため、気化が容易になり、気化熱による冷却が可能となります。従来のコンプレッサーを用いてアルミニウムを冷却する手法と比較して、環境に優しい気化式冷却法として期待されています。また、粘土の染料吸着機能を応用すると、アルミニウム表面の染色が可能になります。染料は粘土の層間に挿入されるため耐光性に優れていることと、従来のアルマイト染色法のようにニッケルを用いた封孔処理が不要であり、アルミニウムの新しい染色技術としてアルミニウム製品への適用が期待されています。さらに、粘土の有するプラス電荷による静電引力を応用することで、例えば、排水中の大腸菌の除去が可能になります。シート状のアルミニウムを基材に用いることで扱いが容易になり、例えば、大腸菌を含む飲料水にハイブリッド材料を浸漬するだけで、大腸菌を吸着・除去でき、除去後にはハイブリッドシートを回収するだけの簡便操作です。同様に、粘土のプラス電荷を活用して、近年、問題となっているマイクロ/ナノプラスチック(MP/NP)の吸着材としての可能性が検討されています。MP/NPは、近年、人間の血液、臓器に存在していることが確認されていることから、人間の体に取り込まれない仕組みつくりが求められています。そこで、ハイブリッド材料をフィルターなどとして利用することで、MP/NPが体内に取り込まれるのを防ぐ役割が期待されています。さらに、アルミニウムの冷間鍛造加工の際に行われる前処理の代替として金属-粘土ハイブリッド処理法が検討されています。Alを加工する際、表面摩擦を低減させるために潤滑処理が行われています。現在は、潤滑処理の際、フッ素を使用して潤滑膜を形成させているが、有害なフッ素を使用することによる弊害が問題となっており、環境に優しい新たな表面処理法の確立が50年以上にわたり希求されてきました。金属-粘土ハイブリッド材料法によりアルミニウム表面に形成された粘土が潤滑作用をもたらすことが判明し、従来法に代わる新しい前処理法を検討中です。
 このように様々な機能を有した金属-粘土ハイブリッド材料について、現在も実用化に向け研究を継続しています。

図1 粘土の表面形状

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