RESEARCH

ペーパースラッジ灰の活用

 製紙工程から排出されるペーパースラッジ(PS)には、微細なパルプ繊維に加え、炭酸カルシウム等の無機物填料も含まれ、年間200万t以上(日本製紙連合会サステナビリティレポート2022より)発生しています。PSの多くは熱エネルギーとして利用されていますが、燃焼後に、填料等の無機物由来のペーパースラッジ灰(PS灰)が発生します。現在、PS灰は、一部セメント原料や地盤改良材等に利用はされているものの、多くは埋め立て処分されています。しかしながら、将来的には、処分費の高騰や埋立地の逼迫等の問題が予想されるため、PS灰の有効利用は急務な課題となっています。このような背景の中、本センターでは、PS灰の水硬性や近赤外線反射性等の機能を見出し、丸住製紙㈱との共同研究、愛媛県紙パルプ工業会からの受託研究を実施してきました。以下には、代表的な研究成果を記載します。
 PS灰に加水するとセメントに類似した固化反応が進行すること、近赤外線反射性を有することを利用した成型体の開発を行いました。各種配合条件を検証し、車両乗り入れ可能な高強度のインターロッキングブロックを製品化し、実際に四国中央市の市営駐車場に施工をしました(図1)。
 また、近赤外線反射率を利用した果実袋用塗工顔料を開発も行いました。果実袋は、鳥虫害や散布薬剤付着防止などの目的で利用されていますが、袋内の温度が上昇しすぎると果実に高温障害が生じます。この果実袋にPS灰顔料を塗工することで、高い遮熱性を付与することができました。一方、PS灰は強アルカリ性材料であり、紙への塗工に際し、中和が必要となります。様々な中和条件を検証し、クエン酸を用いることで、さらなる遮熱性向上を実現しました。クエン酸中和PS灰を塗工した紙袋にキセノンランプを照射し、他の塗工材と経時に伴う袋内温度の上昇を比較した結果、クエン酸中和PS灰塗工紙が高い遮熱性を示す結果となりました(図2)。
 さらに、この遮熱塗工材の技術を活用して、塗料の遮熱顔料用途の検証を行っています。ここでは、セルロースナノファイバーと複合化することで、近赤外線反射率だけでなく、塗膜強度や塗料粘度調整等、新たな付加価値を付与することができました。
 本センターでは、今後もPS灰特有の性質を活かして、様々な付加価値用途の研究を継続してまいります。

図1 (上)PS灰インターロッキングブロック(下)PS灰ブロック施工駐車場
図2 クエン酸中和PS灰塗工による果実袋内温度の変化

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