RESEARCH

柑橘果皮CNFの研究

 愛媛県は柑橘王国として有名ですが、柑橘果実の加工工程でセルロースを含む廃棄物が発生します。例えば柑橘ジュース(ポンジュース)搾汁後の残渣は、愛媛県内で年間約1.8万トン発生し、約3割が産業廃棄物として処分されており、有効活用が求められています。現在、CNFの原料としては、木材パルプが主流ですが、食品や化粧品などの用途によっては、安全性の確保された原料が望ましく、食経験のある柑橘果皮は適していると考えられます。
 我々は、この柑橘果皮からCNFをつくる事ができるのか調査すべく、センター設立前の2012年から研究を開始しました。2014年には、みかんの皮からペクチナーゼという酵素を用いた穏和で簡便なCNF調製法によって柑橘果皮CNF(図1左)を作る共に、みかんの皮がそもそも木材パルプよりCNFを作りやすい構造を有する点について、世界で初めて明らかにし、海外の論文で報告しています。さらに、2019年には、柑橘果皮CNFに水と油を均質に混ぜる乳化能が高い点を見出し(図1右)、化粧品や食品といった用途を提案してきました。
 柑橘果皮CNFの特徴(ナノ化が容易、高い乳化能)を踏まえて、2018年に愛媛製紙株式会社、株式会社アイテック、愛媛県産業技術研究所、国立研究開発法人産業技術総合研究所四国センター、国立大学法人愛媛大学紙産業イノベーションセンターを研究開発連携体とする産官学プロジェクトが発足しました。我々の発表した製法が直接使われた訳ではありませんが、2021年には愛媛製紙株式会社から柑橘果皮CNFが製品化されました(図2左)。さらに、この製品にも同様に乳化能が見いだされた事で、同年、愛媛県内の株式会社アイテックから柑橘果皮CNFを配合したハンドクリームが製造され、上市されました(図2右)。2023年には大手酒造メーカーに愛媛製紙株式会社の柑橘果皮CNFが採用されアルコール飲料に応用される等、柑橘果皮CNFの用途開発が拡がっています。
 柑橘果皮CNFの乳化能については既に企業間での製品開発が進んでいる為、本センターとしては次のシーズを作るべく新たな機能を探索していたところ、柑橘果皮CNFに比較的高いゲル化能を見出しました。現在、愛媛大学 社会共創学部の学生と共に研究中ですので詳細はお見せできませんが、プロバイオティクスとしてヒトに有益な乳酸菌を胃酸から保護する効果を確認しています。これまでCNFに関する研究では、有益な微生物を活かすために使われた研究はありませんでした。我々は、愛媛県特有の原料から調製した安全性の高い柑橘果皮CNFを用いて、有益な微生物を活かす研究に取り組んでいます。

図1 柑橘果皮CNF(左)および柑橘果皮とオイルの乳化物(右)
図2 愛媛県内企業から製品化された柑橘果皮CNF(左)および柑橘果皮CNFを用いた化粧品類(右)

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